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栽培から抽出まで、美味しいコーヒーを
楽しむために知っておきたいこと、すべて。

3

選別

均一性の高いコーヒーへの道のり。

コーヒーの味わいを左右する
収穫から出荷までの工程。

コーヒーは栽培、収穫、精選、乾燥、脱殻、選別という一連の工程を経て輸出される。これらの工程もまた、生産国の地理や気象要素によって内容が大きく異なる。例えば、収穫方法が手摘みか機械摘みか、精選方法がナチュラルプロセス(非水洗式)かウォッシュドプロセス(水洗式)かなど、すべての工程で環境や条件に合った方法が選択されている。この章では、各工程の代表的な技法とそれぞれの特徴を解説する。

3つの収穫方法と
それぞれの特徴。

 収穫方法は、農園の立地条件や規模によって変わる。一般的な小~中規模農園では、木の下に布を敷き、人の手で実をしごき取る方法が多く採用されている。コストも手間もさほど かからないが、収穫する果実の熟度を選ばない収穫であるため、未成熟果実過熟果実、さらには木や葉も混入してしまう。さらには、土壌の雑菌が付着する可能性があり、コーヒーの品質に影響を及ぼす可能性がある。

 広い平地を持つ大規模農園では、広大な土地にコーヒーの木を等間隔に植えていて、木々の間を通る事が出来る大型の機械[fig.01]でコーヒーチェリーを収穫する。大型の機械を導入するにはコストがかかるが、収穫のパフォーマンスは圧倒的。また、人が背負うタイプの機械[fig.02]もあり、斜面や狭い農園で一部活用されている。どちらも、完熟果実だけを収穫することが困難なため、品質としては期待できない。

 急斜面にあり、品質にこだわる農園では、ピッカー(収穫人)が一粒一粒収穫する(ハンドピック[fig.03])。農園の面積は大小様々だが、一粒ずつ判断して収穫するとなると手間と時間がかかる。日の当たり方や枝の元と先端でも成熟のスピードが違うので、収穫に適した「赤色」の認識をピッカー全員で揃えておく必要がある。少しでも未成熟果実や過完熟果実が混入すると品質に影響するからだ。

[fig.01]

左/大型の収穫機。自動車の洗車機のようなアーチ状のマシンがコーヒーの木を跨いで走行する際に、内部のシャフトが振動しながら回転して果実を叩き落とす。
右/収穫された果実を併走するトラックの荷台に移している様子。

[fig.02]

小型の収穫機。熊手のような形状の先端が振動するマシン。枝を揺らして果実を落とす。

[fig.03]

左/ハンドピックの様子。ピッカーが赤く完熟したコーヒーチェリーを選んで手で摘むこの方法は、品質上、もっとも好ましい収穫方法。
右/熟度の異なるコーヒーチェリー。

生産地によって異なる
4つの精選方法。

 収穫後のコーヒーチェリーを生豆の状態にする工程を精選という。代表的な精選方法は、ナチュラル(非水洗式)、ウォッシュド(非水洗式)、パルプドナチュラル、スマトラ式の4つだ。

ナチュラルとは、収穫後のコーヒーチェリーをそのままの状態で乾燥させる方法式。乾燥後に果肉、ミューシレージ、パーチメントを一度にはぎ取る。
果実をつけたまま乾燥するため、乾燥にやや時間がかかり、腐敗する可能性も出てくるため、細やかな管理が必要となる。しかし、乾燥場所の確保さえできれば、設備に費用をかける必要がない。工程がシンプルなのが特徴だ。
水分が抜けてしっかりと乾燥したコーヒーチェリーは固くなり、干しブドウのような姿をしている。日陰などを使ってじっくり乾燥を進ませると、その間に甘さも蓄えられる。それがナチュラルプロセスのコーヒーは甘く、液質が少し柔らかく感じる理由だ。主に、ブラジル、エチオピア、インドネシア(カネフォラ種)、ベトナム(カネフォラ種)などが採用している。

[fig.04]

左/ナチュラル乾燥の様子。右/適正な水分含量に乾燥したコーヒーチェリー。

ウォッシュドとは、コーヒーの選別や果肉の除去に水を利用する方法。収穫後のコーヒーチェリーはまず水槽に入れられ、水に浮いたフローター(何らかの問題があるコーヒーチェリー)と軽い異物を取り除く。沈んだコーヒーチェリーはパルパー(果肉除去機)にかけられ、通過できない硬い果実(多くは未成熟果実)が取り除かれる。パルパーを通った果実はミューシレージと呼ばれる粘液質(種の周りのぬるぬるした部分にあたる)を纏っていて、次はこれを取り除く。そこで登場するのが発酵槽[fig.06]。一皮剥かれたコーヒーチェリーを入れると、酵素と微生物によってミューシレージが分解される。発酵槽の周辺は、独特のツンとした臭いが充満していいて、稀に独特の風味をコーヒー豆に付けてしまうことがある。最近ではミューシレージリムーバーと呼ばれる、粘液質を除去する機械もあり効率化も進んでいる。
ウォッシュドプロセスのコーヒーは比較的クリーンに仕上がり、酸味が際立ちやすい傾向がある。またスッキリ軽やかな液質になりやすい。ただし、このプロセスは水源の確保と処理設備投資が必要となる。近年は使用済み排水の環境リスクを軽減する取り組みもみられる。

[fig.05]

左が成熟果実、右が未成熟果実。

[fig.06]

ミューシレージを取り除く発酵槽。

[fig.07]

ウォッシュド乾燥の様子。

 パルプドナチュラルとは、ブラジルで開発されたナチュラルとウォッシュドとの中間的な方法。収穫後のコーヒーチェリーをパルパーにかけ、果肉だけを取り除きミューシレージが付いた状態で乾燥させる。パルパーにかけた際にある程度の選別ができているから、ナチュラルに比べ、未熟豆が入りにくく均一性が高くなる。しかし、ミューシレージの残したままの乾燥は管理が難しく、クオリティを下げる原因にも繋がる。ナチュラルとウォッシュの中間と言われるように、甘さもありスッキリとクリーンな味わいに仕上がる。中米では「ハニープロセス」と呼ぶこともある。

[fig.08]

パルプドナチュラル乾燥の様子。

スマトラ式は、インドネシアのスマトラ島の一部で行われている。まず、収穫後のコーヒーチェリーをパルパーにかけ、ミューシレージの残ったパーチメントコーヒーを、十分に乾燥させない状態で脱殻(パーチメント除去)し、生豆の状態にしてから乾燥させる。そのため独特の深緑色をしている。充分な乾燥時間がないという熱帯地域の気象条件に合わせて生まれた精選方法。
スマトラ島で収穫される有名なコーヒーといえばマンデリン。このマンデリンは熱帯雨林のような深い色合いをしていて、蒸し暑いときにこそ飲みたくなるようなスパイシーな風味。スマトラ島という環境が作り出した、アジアが誇るコーヒーだ。

[fig.09]

スマトラ式の生豆。独特の深緑色が特徴。

出荷前の最終工程、
乾燥、脱殻、選別。

 精選の次工程、乾燥はクライマックス。しかしかなりデリケートな工程だ。収穫したてのコーヒーチェリーの水分含量は60~80%。それを乾燥させることで10~13%まで減少させる。不十分な乾燥は微生物によるダメージが起こりやすくなり、乾燥させ過ぎると生豆重量の損失や割れ豆が増える原因となる。さらには、乾燥させるスピードコントロールも必要。お天道様の顔色も見つつの作業は予想が立てられないことも多く、毎年の品質の維持はとても難しい。十分な収穫量があっても、この乾燥工程の気候や管理によって品質は大きく変わってしまう。

 具体的に乾燥には大きく2つのパターンがある。伝統的な方法は「天日乾燥」。日当たりのいい場所に、土、レンガ、コンクリートなどで乾燥場所を作り、太陽熱を利用する。利点はスペース分のコーヒーを一同に乾燥させられること。難しい点は、広げるコーヒーの厚みや、攪拌頻度で乾燥のスピードが変わったり、バラつきが発生すること、天候の影響を受けやすく、雨への対策が必須なこと。
 もう1つは「機械乾燥」。こちらは地理的条件や天候の影響を受けにくい。しかし、乾燥状況をみながら熱量の調整に細心の注意が必要となる。設備投資できる農園であれば、両方の乾燥パターンを併用している。天候状況と品質保持を上手くコントロールしている。

[fig.10]

天日乾燥の攪拌の様子。左はグアテマラ ウォッシュド、右はブラジル ナチュラル。農具を使ったり、機械を導入したり、その方法は産地によってさまざま。

[fig.11]

大型機械で乾燥している様子。

 乾燥後の工程は脱殻。つまりドライチェリーやパーチメントコーヒーから、生豆を取り出す工程だ。十分に乾燥させていないと、上手く割れないのだそう。生豆を傷つけずに取り出したら最終工程、選別に移る。

 ここでいう「選別」とは生豆の状態で行う工程を指す。重力と風力を利用して、軽い異物と豆を分ける「風力選別」、異なるサイズの穴の開いたスクリーンをいくつか重ね、振動により分類する「スクリーン選別」、傾斜した振動するテーブルに豆を広げ、重さ別に分けていく「比重選別」、通過する豆にセンサーをあて、変色した豆を除去する「電子選別」、テーブルなどに豆を広げ、目視によって欠点豆を取り除く「ハンドピック」などがある。

 収穫から選別まで、一連の工程で繰り返されるのは「均一化」。品質が均一であることが美味しいコーヒーの条件だからだ。栽培環境や品種だけでは美味しいコーヒーは生まれない。

コーヒーの産地で生まれる
新しい味覚。

 近年、環境や条件、伝統的な栽培方法に囚われず、革新的な手法にチャレンジする農園も増えてきた。そして新しい味覚体験や驚きを絶えず更新し続けている。その一例が「セミ・カーボニック・マセレーション」や「ナチュラル・アナエロビック」と呼ばれる発酵(嫌気性発酵とも称される)プロセスだ。収穫したコーヒーを外気に触れないような状態(二酸化炭素や窒素を使う場合もある)にして、通常と異なる酸素のない状態をつくりだし、その環境下で活発に働く微生物の力で発酵を進める。結果として、通常とは異なる微生物の活躍で新たなフレーバーが発生しそれまでのコーヒーの固定概念を覆す味わいを作り出す。
 飲み続けること、求め続けること、産地の暮らしを守り続けること。この循環はコーヒーの進化を止めないだろう。

[fig.12]

ブラジル ダテーラ農園の嫌気性発酵用の密閉タンク。

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