朗読:夏木マリ/ 詩:文月悠光

エシカルキャンペーン「コーヒーの詩」(朗読:夏木マリ/ 詩:文月悠光)の一遍、「森の人からの手紙」の朗読。こちらの詩は、インドネシア スマトラ オランウータンコーヒーが題材となっています。

 

 

 

森の人からの手紙

文月 悠光 

 

うっそうと茂る木々の間から

森の主が姿をあらわした。

現地の言葉で「森の人」とも呼ばれる彼らは

生涯の多くを高い木の上で過ごす。

だが、暮らしのために

森を破壊せざるを得なかった「人」もいる。

人間が奪った彼らの財産を

人間の手で自然に返そう。

破壊から、再生を導きだすために。

 

森は変化し続けるひとつの宇宙。

その恵みを受けない者はいない。

「生きる」という恵みだ。

木の上での身のこなしもその一つ。

足裏まで器用にあやつり、

蔦をしっかりとつかんで伝い渡る。

自力で食べものや水を見つけ、

ときには樹の皮で飢えをしのぐ。

葉っぱで形づくる樹上のゆりかご。

彼らは森で生き抜くためのすべてを学ぶ。

 

森自体が 人間には計り知れない

知的な生命体なのだとしたら――

森の人は奇しくもそれを伝えるために

わたしたちの前にあらわれたようだ。

その証拠に、彼らは

わたしたちとよく似ている。

手を重ね合うこともできる。

長い腕を空へ力強くさしのべて。

 

コーヒー豆の一つ一つは種子。

芽吹く力を小さな身に

ぎゅっと秘めている。

口の中でそれが旨味に変わるのは

手をかけた人間の知恵のみならず、

大地の記憶に深く根ざしているからだ。

「豊かさ」とは何か。

わたしは問いかけることをやめない。

人もまた変化し続ける宇宙の一部。

失敗と学びをくり返しながら、

森と目を合わせて、生きていく。