コーヒーと食。その未知なるペアリングの可能性を、料理家をゲストに迎え探っていく「バリスタと料理家」。第3回のゲストは、カジュアルでありながら本格的なイタリア料理の味に定評がある相場正一郎さんです。今回のテーマは季節を彩るフルーツ、白やピンクといった、初夏の陽気に映える鮮やかな色が美しい食材を使った料理。前菜とメインのパスタ料理と引き立て合うコーヒーを探るために二人のセッションが始まります。

イタリア料理に合わせたい、コーヒードリンクとは?

–今日はブラータチーズを使った彩りのよいフルーツサラダ、桜エビを使ったペペロンチーノといった、イタリアンの前菜&メインディッシュのコース料理がテーマ。チーズ、魚介、生ハム、苺、ハーブetc. 実際に料理に使用する食材を並べてみると、ペアリングドリンクにはワインをイメージする人も多いのかもしれません。今回はあえて定石を外す面白さをお二人に楽しんでいただけたら。
 
吉川寿子(以下Y)_美容や心身の健康のためにアルコールを嗜まない人が世界中で増えてきている傾向があるんですよね。お酒は好きだけど、あえて飲まないライフスタイルを選択している感じで。そういう人がBARに行ったときに「モクテル」を注文するカルチャーがあります。「モクテル」とは、似せた、真似たという意味の「mock(モック)」と「cocktail(カクテル)」を組み合わせた造語のこと。イギリスが発祥のノンアルコールカクテルで「OGAWA COFFEE LABORATORY桜新町・ 下北沢」でも提供しています。今回、相場さんにお作りいただいたブラータチーズを使ったフルーツサラダには、このコーヒーモクテルが合うのではないか、とピンとひらめきました。
 
相場正一郎(以下A)_コーヒーモクテル、新鮮ですね。

フルーツサラダには軽やかに楽しめる、コーヒーモクテルが合う。

Y_今日のモクテルには「コスタリカ サンタルシア」の豆を選びました。豆をエスプレッソ挽きにして、エアロプレスで抽出して濃縮液を作ります。抽出するときには、力を入れ過ぎず、優しくプレス。プレスし過ぎてしまうと、エグみが出てしまうので、そこに気をつけて。エアロプレスはコツさえ掴めば、どなたでも簡単にコーヒーが美味しく淹れられる抽出器具なんです。濃縮液を作ったら、『Giffard』のエルダーフラワーシロップをいれ、水出ししたジャスミンティーを注いだら出来上がり。配分はジャスミンティー50mlに対してコーヒー30ml。コーヒーの量が少なくても、十分濃度感があるのでこのくらいがいいバランスです。水で割ってもいいですが、そうすると味のボリュームが減ってしまうんです。やはりジャスミンティーで割るのが断然おすすめです。

A_最初の一口目の印象はコーヒーだけど、コーヒーじゃないというか。エルダーフラワーシロップの柑橘の香りが立っていて、爽やかな飲み口がいい感じ
です。
 
Y_「コスタリカ サンタルシア」の豆は、“コーヒーのシャンパン”と言われるくらい口に含んだときの柑橘系の爽やかな酸味とクリーンカップが持ち味なんです。
 
A_確かにコーヒーのシャンパンという喩えがピッタリですね! ジャスミンティーが使われているけれど、そこまでその味が強く押し出されている印象がないのが不思議。
 
Y_クオリティーが高いコーヒーの中には、ティーフレーバーがあったりするんです。サンタルシアのコーヒーはまさにそれ。でも決して華やかなコーヒーではないので、華やかさを加えたらどうなるかな、と考えたときにジャスミンティーを入れたら風合いがでて想像以上のマッチングでした。

A_なるほどね。捻りのあるアレンジが素晴らしい。コーヒーの基本の味とは異なるし、とても食事に合いますね。最初はコーヒーとイタリア料理はそんなに合わないのではないか、どうなんだろう? と思っていたけれど、合わせていただいてみると、ごくごく自然。生ハムの塩味といちごの酸味と相性がいいですね。イタリア産の濃厚高脂肪牛乳を使用したブラータチーズは中身がトロトロなのですが、舌に残るクリーミーさをさっぱりと流してくれる。女性が喜びそうな味で、僕の想像の範疇を超えていて驚かされました。

豆のチョイスとコーヒーの濃度調整がペアリングの鍵を握る。

Y_:コーヒーの味わいはフルーツのフレーバーに例えられますが、フルーツと一緒にコーヒーを飲むことは実は少ないんです。ですが、フードに合いそうなコーヒーを選んで、さらに仕上がりの濃度を調整することができたら、美味しいペアリングドリンクが作れます。例えば、フルーツに合わせるなら、引き立てたい味わいが消えないように、味わいを薄く優しく仕上げるとか。今回、エルダーフラワーシロップを使ったのは、ジャスミンティーとの相性がいいから。甘く、華やかさを感じる味わいで「また飲みたい」と思う高揚感が生まれるように思います。

A_シロップはほかにも色々と種類があるんですか?
 
Y_:はい。アレンジドリンクを作るためのシロップはたくさんあります。コーヒーとシロップの組み合わせで、かなり印象の違うドリンクができあがります。エルダーフラワーを選んだ理由として、私は普段からコーヒーの味わいを色分けして捉えているのですが、このコーヒーは「白」のイメージがあるんです。例えるなら、グレープフルーツ、ライチ、マスカットといった果実が持っている色に近い。ブラータチーズも白、ジャスミンの花も白、コスタリカ サンタルシアのイメージも白。今回は白がテーマなんです。ここに甘さを加えるなら、白い花のエルダーフラワーで作られたシロップを使うしかないと思って、エルダーフラワーシロップを選びました。
 
A_なるほど。そういう観点で豆をチョイスされているんですね。
 
Y_:はい。メインの「桜エビとエビのペペロンチーノ、スパゲッティ」のペアリングは、ちょっと冒険してみました。まずは、グラスにローズマリーを入れて香り付けをするところから。グラスにローズマリーをひとかけら入れ、蓋をします。そうすることで香りを閉じ込めることができるんです。このグラスにコーヒーを入れて、強炭酸のソーダで割り、仕上げにソルティードッグのように、グラスの縁にレモン果汁と塩をつける。口の中のオイル分をクリアにするために、時々この塩をペロッと舐めながらコーヒーを飲んでいただくとコーヒーの甘さが引き立つんですよ。

A_これは、人生で体験したことがない味です。少し苦味を強く出していらっしゃいますか?
 
Y_:そうですね。食事と合わせるために抽出適温と言われる91℃より温度を3℃上げて、味を濃く苦味のフレーバーが引き立つようにしてみました。ローズマリーのスパイシーな香りとコーヒーのマッチングに挑戦した感じです。
 
A_食事と合わせても嫌な感じがしない、独特の苦味が効いているように思います。ちょっとビール感があるというか。ローズマリーの香りが効いた少しクセのある味わいが面白いですね。パスタにも香草が入っているので味に繋がりを感じます。

Y_:このドリンクには甘いシロップを入れたりせず、コーヒーの味で勝負したかったんです。豆は「ケニア ガチュヤニ」。このコーヒーは「赤」のイメージで選びました。ケニアの土って酸化鉄の影響で赤く、ミネラルも豊富なんです。先入観ですが、コーヒーの液体もどことなく赤くて、味は強くてフレーバーが豊富。土壌の肥沃さを感じとれるんです。ペペロンチーノに入っている、エビ、ドライトマトの「赤」のイメージに合わせて選びました。
 
A_こちらのドリンクは肉料理にも合いそうですね。僕がイタリアに住んでいた時は食後には絶対、エスプレッソしか飲まなかったけれど、日本に戻ってきてからはどんどんコーヒーが進化していることを強く感じています。今回のペアリングは、どちらも新体験ですごく面白かった。
 
Y_:今日、モクテルで作ったエスプレッソの濃い抽出液を作っておけばカフェラテやアメリカーノも作れるし、応用が効きます。家でも本格的で美味しいコーヒーが簡単に淹れられますよ。

COFFEE PROFILE
コスタリカ サンタルシア
環境保護の高いコスタリカ。ウエストバレー地区の標高1,700mの場所にある「サンルシア農園」で環境に配慮して作られたコーヒー豆。コーヒーの木を強い日差しから守り、土壌の維持にも効果があるシェードツリーを植えるなど、安定して上質な豆が収穫できる努力をしている。爽やかな香り、シャンパンを思わせる軽やかな酸味と甘みを持った味わいが特徴。
COFFEE PROFILE
ケニア ガチュヤニ
スペシャルティコーヒーの産地として知られるケニア ニエリ地区。標高2,000mの場所にある農園で生産されている。小川珈琲が「酸っぱく感じない」ケニアの豆を追い求めて辿り着いたのが、この「ガチュヤニ ファクトリー」の豆。柑橘系の爽やかな香りが際立ち、パッションフルーツのような酸味を持ち合わせている。特徴的なほど良い酸味は、コーヒーカクテルとの相性もいい。
COFFEE
Bouquet(ブーケット)
おすすめのコーヒー:浅煎りで、柑橘系のさっぱりとした酸味があるコーヒー
おすすめの抽出器具:エアロプレス
(エアロプレスがなければ、いつもより3倍程度濃く抽出したコーヒーがあればOK)

〈コーヒーの抽出〉
【分量】
Ⓐコーヒー(エスプレッソ挽き)…20g
Ⓑお湯(93℃)…60ml
【抽出手順】
❶エアロプレスのチャンバーにⒶを入れる。
❷Ⓑのお湯を注ぎ入れ、パドルで10回混ぜる。
❸❷にプランジャーを1cm程度差し込み、30秒間蒸らす。
❹ゆっくりとプレスする。空気が抜ける音を合図にプレスは終了。

〈アレンジ〉
【材料】
急冷したコーヒー…30ml
ジャスミンティー…50ml
エルダーフラワーシロップ…9ml
エディブルフラワー…適量
【下準備】
Ⓒ抽出したコーヒーは急冷しておく。
Ⓓジャスミンティーは水出しで抽出しておく(やや濃い目が理想)。
【作り方】
❶グラスにⒸとエルダーフラワーシロップを入れよく混ぜ、氷を入れる。
❸Ⓓをゆっくりと注ぎ入れる。
❹最後にエディブルフラワーをのせ、完成。
COFFEE
Good morning Kenya
おすすめのコーヒー:中煎り~深煎りで、スパイシーでコクと甘みが強いコーヒー
おすすめの抽出器具:エアロプレス
(エアロプレスがなければ、いつもより3倍程度濃く抽出したコーヒー(コーヒーメーカーでもOK))

〈抽出レシピ〉
Ⓐコーヒー(エスプレッソ挽き)…25g
Ⓑお湯(95℃)…80ml
【抽出手順】
❶エアロプレスのチャンバーにⒶを入れる。
❷Ⓑのお湯を注ぎ入れ、パドルで10回攪拌する。
❸❷にプランジャーを1cm程度差し込み、30秒間蒸らす。
❹ゆっくりとプレスする。空気が抜ける音を合図にプレスは終了。

〈アレンジ〉
【材料】
急冷したコーヒー…50ml 
ローズマリー…2片
強炭酸水…50ml
レモン果汁…少々
岩塩…少々
【下準備】
Ⓒ抽出したコーヒーは急冷しておく。
Ⓓグラスに2片のローズマリーを入れ、蓋をして香りづけする。
【作り方】
❶Ⓓからローズマリーを取り出し、グラスの淵の一部分
(2cm程度)をレモン果汁で湿らせ、そこに岩塩を付着させる。
❷❶に氷をいれ、強炭酸水をいれる。
❸Ⓒを静かに注ぎ入れる。
❹最後にⒹで使ったローズマリーをのせ、完成。
CUISINE PROFILE
「生ハムと季節のフルーツ(いちご)とモッツァレラブラータチーズ」「桜エビとエビのペペロンチーノ、スパゲッティ」
参宮橋の駅からほど近い場所にある「LIFE」の姉妹店である「LIFE son」。今回、ペアリングしたメニューはこちらの店舗でも食べられる。

「生ハムと季節のフルーツ(いちご)とモッツァレラブラータチーズ(¥2,500)。
イタリア産の濃厚高脂肪牛乳を使用したブラータチーズにナイフを入れると、生クリームがモッツァレラチーズとトロトロと流れ出す。イタリア・パルマ産の生ハム、いちごを合わせたときの複雑に混じり合う様は絶品。

「桜エビとエビのペペロンチーノ、スパゲッティ」(¥1,680)。
2種の海老のペペロンチーノは「LIFE」の季節メニューの中でもとりわけ人気。旬を迎える桜エビの香ばしさはクセになる味わい。食感が異なるムキエビ、うま味を出すドライトマト、ハーブなど味の深みと香りを楽しめる。